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日韓対立を読み解く(1) 文大統領の「決起演説」

 2019.08.07
日韓対立を読み解く(1) 文大統領の「決起演説」

「悪しき挑戦者」と呼ばれた我が国

周知の通り、82日(金)、韓国を通商に関する「ホワイト国」から除外することを、日本政府は閣議決定した。すでに、半導体製造などに使われる、軍事転用可能な重要3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、エッチングガス=高純度フッ化水素)については輸出管理の厳格化が発表され、続いて今回の措置に至った。ホワイト国から除外されると、輸出管理の対象が約1100品目に拡大し、輸出許可を受けるには厳格な手続きと書類審査が必要となる。

 

 

これに対し、文在寅大統領は、即日、臨時国務会議(閣議)を開催し、日本政府の行動は、「(韓国の)将来の経済成長を妨げることにより我が国の経済を攻撃して傷つけるという明確な意図を持って」おり、「利己的で破壊的である」と主張した。さらに、こうした「経済戦争」を仕掛ける日本を「悪しき挑戦者」と位置づけ、これを韓国が打破しなければならない、という。

 

 

文大統領の言葉をそのまま引用しよう。

「悪しき挑戦者に屈すると、歴史が繰り返されてしまいます。悪しき挑戦者に屈するのではなく、現在の課題を好機と捉えて新たな経済的飛躍をもたらす機会に変えることができれば、日本に完全に勝利することができます。私たちの経済は日本を凌ぐことができます。」

 

 

「善」の韓国と「悪」の日本

国務会議の冒頭発言から読み取れる文大統領の日韓関係の認識は、驚くほどシンプルである。経済関係や過去の関係にも言及しているが、基本構造は同じで、「善の韓国と悪の日本」という、非常に単純な二項対立で構成されている。そして、「善の韓国」が悪しき日本を乗り越える、という。非常に素朴である。

 

 

たとえば、現在の日韓関係について、「状況を悪化させたことについての責任は日本政府にある」、そして、「今後起きる事態について日本政府が全ての責任を負うべきである」という。

 

 

これに対して韓国は、「外交的に問題を解決しようと韓国政府や国際社会が努力をしてきた」のであって問題解決のための外交努力を行ってきたのは韓国だ、という。

 

 

ここには、貿易管理体制に関する実務者レベルでの協議を3年にわたって怠ってきたことも、慰安婦問題について和解のための財団を設立したことも、ましてそれを文政権が一方的に破棄したことも、現状認識のスコープから外されている。

 

 

また、文大統領は別の部分で、日本の「技術覇権」という言葉も用いている。韓国が技術力を強化し、「我が国が再び他国の技術覇権に従属することのないよう尽力」するという文脈だが、この覇権という言葉には、韓国では「力によって不当な権力を手にした者」というニュアンスが含まれる。つまり、彼らにとって日本の現在の技術レベルは「不当に得られた能力」なのであり、それを韓国を屈服させるために用いている、というのだ。

 

 

こうした日本の「悪しき経済覇権」に対して、「私たち(韓国)は無数の困難を乗り越えて今日まで発展してきました。かなりの困難が予想されますが、私たちの企業と国民はこれらの困難を乗り越える能力を持っています。私たちが過去にいつもしてきたように、私たちは実際に逆境を飛躍の機会に変えるでしょう」という。ここでも基本構造は全く同じであり、「悪しき日本」を「善の韓国」が乗り越える、という構図である。

 

 

「日本狩り」に進む危険

今回の演説は、文大統領が国民に向けて団結と技術発展を呼び掛けるという趣旨だ。したがって、ある程度の単純化がなされるのはやむを得ない。

 

 

しかし、この非常に単純な善悪の二項対立には、かなり危うい落とし穴がある。それは、自ら交渉の窓口を断つだけでなく、民間レベルでも交流を不可能にすることだ。なぜなら、問題が善と悪に還元されてしまうと、いっさいの接触は「悪魔の誘惑」であり「善への裏切り」となる。

 

 

20世紀以降の百年余を見ても、この二項対立が危険な結果をもたらすことを、我々は十分に知っている。冷戦初期に、自由主義 vs 共産主義の枠組みが強固であった時代(すなわち米ソ雪解け以前)、アメリカではマッカーシーの「赤狩り」が、ソ連ではスターリンの「粛清」が吹き荒れた。冷戦後は、アルカイダのテロによって「文明国 vs イスラム」という対立構図が描かれ、人種差別とテロの応酬は、いまだ止んでいない。

 

 

こうした過去を顧みれば、文大統領の演説は、「赤狩り」ならぬ「日本狩り」を韓国で呼び起こす危険すら孕んでいる。すでに日本製品の不買運動は広がっており、各種交流事業の中止も起きている。今後、これらが過去に日本との良好な関係を模索した人々への弾圧へと、すなわち「日本狩り」へと発展する恐れは低くないのではないか。これについては、次回検討しよう。