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北朝鮮との「仲介役」になれない文在寅とトランプの次の一手

 2019.04.17
北朝鮮との「仲介役」になれない文在寅とトランプの次の一手

411日(木)、韓国の文在寅大統領は、トランプ大統領との首脳会談に臨んだ。今年2月にベトナムのハノイで行われた米朝首脳会談の事実上の決裂を受け、「仲介役」としてのポジションを再確立すべく、ホワイトハウスに乗り込んだ文大統領だが、思惑通りとはいかなかったようだ。

 

報道等でも明らかにされている通り、トランプ大統領との実質的な会談時間はわずか2分間(大半の時間を報道陣との質疑応答にトランプ大統領が充当した)、温度差ばかりが目立ってしまった。一方、トランプ大統領は記者会見のなかで制裁強化の可能性すら示唆したため、北朝鮮の金正恩委員長も最高人民会議においてこれに反応を見せている。

  

文大統領はワシントンでの記者会見のなかで、「あなた(トランプ大統領)が金委員長と会談し、彼との個人外交を開始して以来、我々は急激かつ大幅な軍事的緊張の低減を目撃している。いまや平和が姿を現しつつある」として、両首脳による直接会談の重要性を強調しつつ、「私にいま与えられている重要な課題は、対話の機運を維持し、積極的な見通しを立てることだ。そのなかには第3回米朝会談も含まれる。国際社会のためにも、これは近い将来開かれるべきである」と主張した。つまり、対話路線を維持し、第3回米朝会談を現実のものとする仲介を、自らの課題であると任じたわけである。

 

これについてトランプ大統領は、「北朝鮮には大きな可能性があり、…(中略)…我々はそれについて、さらに将来的な北朝鮮そして金正恩との会談についても議論する」と応じた。これを「会談に前向き」と読み取るのは、ややミスリーディングであろう。

 

トランプ大統領は、金委員長と個人的関係を強調した、と報道は伝えているが、これは半分正しく、半分は不正確だ。確かに、金委員長と個人的に良好な関係にあるという言及はある一方で、トランプ大統領は、「(北朝鮮の核問題は)世界全体に関わる問題だ。そして、率直に言うが、世界全体が見ている」と指摘している。つまり、北朝鮮の特に核開発に関する問題は、個人的な事項ではない、と述べている。さらに、「世界全体が見ている」、つまり安易な妥協を行ってしまえば、イランをはじめとする核開発国を勢いづけたり、ベネズエラなどの腐敗した独裁体制につけ込む余地を与えてしまいかねない、と示唆している。この点を見落としてはならない。これは、個人的には良好な関係でも、安易な妥協をアメリカ合衆国政府はできないという、責任ある態度だ。

 

交渉で妥協が必要なのは北朝鮮であることを、トランプ大統領は率直に指摘した。「私が思うに、ほとんどの部分は金委員長にかかっている」と大統領は述べ、経済支援や制裁緩和についても時期尚早であると述べた。それだけでなく、トランプ大統領らしい率直さというべきだろうか、軍事的圧力、経済制裁の両面について、少なくとも維持、場合によっては強化することをもトランプ大統領は示唆した。

 

「我々は軍事領域の貿易、兵器購入についても議論するつもりだ。韓国は我々から多くの装備品、特に軍事に関する装備品を購入する」と述べている。念のために指摘しておくが、「購入する」(buys)とトランプ大統領は、現在形で述べている。つまり、過去の話ではなく現在のこととして、韓国の軍事的増強にアメリカは力を貸す、と述べた。

 

制裁についても、「我々は制裁を現状に留めおこうと考えている。そして正直に言うが、それを大幅に強化することも選択肢にある」と指摘、金委員長との個人的な関係において、制裁強化には踏み込みたくないと留保しつつ、「我々は常に制裁強化が実行できる」と二度も繰り返した。

 

12日(金)、北朝鮮の金正恩委員長は、国会に当たる最高人民会議において演説を行い、トランプ大統領との個人的関係を強調する一方、アメリカ外交の方針については強く批判する、という反応を見せた。

 

メディアなどで伝えられている通り、金委員長は「新たな朝米関係の基礎となる『敵対的政策の取り下げ』をアメリカは実行する様子を見せておらず、我々に最高度の圧力をかければ我々が膝を屈するという誤算を続けている」と述べた。「もしアメリカが現在の考えを維持するのであれば、会談を何度積み重ねたところで、拳を下ろすどころか、いかなる利益も生じることはない」と金委員長は述べている。

 

こうした発言は明らかに、トランプ大統領の制裁維持路線への反応であろう。また、そうした仲介役としての役割を文大統領が発揮していない、という不満の表明とも見える。

 

現時点では、まだ言葉のやり取りだけで、ミサイル発射や核実験の再開は生じていない。アメリカ側も制裁強化をトランプ大統領が止めている状態である。しかし、一見穏やかに見える水面の下で、急激な変化が用意されているものである。米朝関係の行方は、決して「平和が姿を現しつつある」などと楽観できるものではないことを、文大統領の訪米はむしろ示してしまった。