「ロシア疑惑」と民主党のショープレー
2019/03/25

「ロシア疑惑」と民主党のショープレー

ロバート・ムラー特別検察官による、ロシアの大統領選挙干渉問題、いわゆる「ロシア疑惑」に関する捜査が終結した。報告書は322日(金)に司法省に提出され、2日後にウィリアム・バー司法長官は議会に対し、主要な結論をまとめた文書を送付した。ムラー検察官による報告書は、現時点では「関係者限り」(confidential)扱いとなっており、公開されるかどうかも含めて、明らかではない。

 

 さて、バー司法長官による議会報告の要旨は、すでに報道されている通り、選挙干渉についてはトランプ陣営とロシア側との「共謀」はなかったと判断した。一方、トランプ大統領による捜査妨害については、報告書において「実行された行為が妨害を構成するか否かについては、結論を出さなかった」とし、そのため司法省としては証拠不十分と判断した。これによって、22ヶ月に及んだ「ロシア疑惑」についての捜査は、一定の結論が得られたことになる。

 

トランプ大統領は、当初から特別検察官による捜査を「魔女狩り」と批判し、「共謀妄想」(collusion delusion)だと主張していた。「妄想」と呼ぶのは、次のような意味だ。2016年の大統領選において、共和党内での予備選においてすら「泡沫候補」と目されていたドナルド・トランプが、共和党内の予備選を勝ち抜き、さらに「本命」と思われていた民主党のヒラリー・クリントン候補を下すに至った。こうした大逆転が生じた背景には、「何らかの不自然な力が作用したのではないか」という疑いである。そして、その「不自然な力」はロシアによるものではないか、と推定された。これが「共謀妄想」の正体であった。

 

 そして実際に、少なくともロシアとトランプ陣営が共謀していなかったかどうか、というこの本体部分については明らかな「シロ」という結論が出された。一方、トランプ大統領がこの22ヶ月にわたる無駄な捜査に対して行ったいくつかの行為が「司法妨害」を構成するかというテクニカルな問題は、「何とも言えない」ということになった、というわけである。

 

 後者の「司法妨害」について報告書が「結論を出さなかった」ということでもって、日本のメディアやアメリカのリベラル系メディアは「まだ疑わしい」という雰囲気を作ろうとしている。だが、これは明らかに「疑惑」問題の建付けを無視している。疑惑問題の一階部分は、あくまでトランプ陣営とロシア側との選挙干渉についての共謀があったかどうか、である。繰り返すが、これについてはムラー報告書も「関与はなかった」としている。

 

 そうであれば、そのような「無駄な調査」に、延々と(結果的に22ヶ月もの)時間を費やす必要はないとして、政権が人事面、捜査面で一定の制限を課すのは止むを得ないことのはずだ。たとえて言えば、「あなたはライバルの●●社との関係があるのではないかと噂する人々がいる。大事なお仕事の最中に申し訳ないが、これについて調査に協力しなさい。なお、特に元の噂話に証拠は挙がっていない」と言われて、これを断れば「司法妨害」に該当するか、と言っているようなものだ(言っているようなものだというより、ほとんど同じことだ)。一階部分を無視して、「司法妨害を構成するかどうか」だけを問うのが馬鹿げているのは、明白だろう。

 

 まして、ムラー検察官の捜査は常軌を逸していたのである。『トランプのアメリカ』のなかで、ニュート・ギングリッチ元下院議長はムラー捜査官の取り調べを、次のように記している。 

 

「ミューラーは、大統領の周りにいる人間を可能な限り呼び寄せ、次から次に証言を集めてゆく。しかる後、数か月たって再びその人を召喚し、捜査官に当初証言したことについて質問を浴びせる。どのような不一致も、たとえそれが取るに足らないものであっても、虚偽の陳述、偽証、司法妨害として攻撃的なまでに起訴される」(『トランプのアメリカ』邦訳版、p.228

 

画像はニュート・ギングリッチ元下院議長のTwitterより。

 

こうした捜査に協力しなければ「司法妨害」であると結論付けなかっただけ、ムラー検察官は「良心的」であったと我々は褒め称えるべきなのであろうか?

 

 さて、少なくともこうして、「ロシア疑惑」についての法的判断は終わった。これから、疑惑は法的判断から「政治」に場所を移して、くすぶり続けることになる。早速、議会民主党は「数多くの答えるべき問題を提起する」と息巻いている。上院院内総務のチャールズ・シューマーと、ナンシー・ペロシ下院議長(ともに民主党)は、「バー(司法長官)は特別検察官の捜査に対しておおっぴらに偏見を持っており、彼は中立的な観察者でもなければ、報告書について客観的な判断を下せる立場の人物でもない」と連名で主張、「アメリカ人には知る権利がある」と、あくまで魔女狩りの続行を求めている。また、ジェロルド・ナドラー司法委員長はバー司法長官に対する審査会を「近い将来」実施すると明言した。

 

こうして、「ロシア疑惑」は法の手を離れ、これからは根拠もなく言い争いが続く「党派対立」へと場所を移すこととなる。そこでの主な論点は、(1)バー司法長官がムラー検察官の報告書を読んで結論を出すのにふさわしい人物なのかどうか、(2)検察官の報告書の全文公開を行うべきかどうか、(3)共謀がなかったにもかかわらず、「無駄な予算や人員をつけなかった」というトランプ大統領の判断が「司法妨害かどうか」、といっている点である。

 

制度上、司法長官が結論を出すことになっている報告書を、さらに司法官僚で捜査を当初から監督してきたローゼンスタイン副長官(彼はトランプ大統領と不仲とすら言われている)も交えて出した結論を、民主党は「偏っている」と騒ぎ立てようというわけである。

 

所詮、こうした騒ぎは選挙向けのパフォーマンス、ショープレーに過ぎない。だが、こうした「お祭り騒ぎ」は、2020年の大統領選に向けてますます根拠もなくヒートアップしていくことだろう。トランプ大統領は実績と実力で、こうした「魔女狩り」を圧倒していくしかない。

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