2019年初の東アジアは、かなり穏やかならざる政治発言で幕を明けた。1月2日、中国の習近平国家主席が、台湾に対する武力行使を威嚇したのである。これに対し、台湾の蔡英文総統は1月5日、民主主義を守るための国際的支援を呼びかけた。
日本の最西端である与那国島から台湾は、わずか150kmの距離しか離れていない。これは東京から伊豆半島までの距離しである。このわずかな距離を隔てた地域で、「力による政治」が剥き出しの姿を現し始めたのである。
「力による政治」が今、アジアの基調的地位に復しつつある。当面のあいだ、アジアはこの傾向を維持し、強めてゆくだろう。
東シナ海に、そしてアジア全域に危機的な状況が広がるなか、日本はどのように舵を取るべきなのか。このテーマを考える羅針盤として、連載『新・独立自尊』の筆を取ることにした。
まず、2025年の世界を考えてみよう。その時の世界が、各国の利益が直接的に衝突する「力による政治」になっていないと考える理由は、実はあまりない。
中国では、習近平が2025年に72歳。2期10年に限られていた国家主席の任期を2018年3月に撤廃してしまったため、本人に健康問題でも起きなければ、権力者の地位に居座っているだろう。一方で、いまだ人口爆発が続く中国の人口は、14億4000万人ほどになると推計されている(国連経済社会局「世界人口の見通し」による)。中国の拡張主義が止まる見通しは立っていない。中国は現状路線のまま、「一帯一路」構想を推し進め、中央アジアやアフリカ、東南アジアにおいて勢力圏拡大に努めているだろう。朝鮮半島を完全に影響下に置いてしまい、さらに台湾侵攻が現実のものとなっているかもしれない。日本海の向こう、東シナ海の向こうは、中国の拡張政策の「前線」になっているであろう。
一方、ロシアでは、プーチン大統領が73歳。いまのところ2024年に退任することとなっているが、権力者の地位にとどまっている可能性は高い。ウクライナやジョージアで起きたような影響力確保の動きを継続させているだろう。
南アジアでの状況は、核戦争を見据えた危機的なものとなっているかもしれない。この地域では、巨大な人口爆発が起き、不安定化が進む。国連の人口推計によると、インドの人口は2025年に14億5000万人を超え、中国を抜き去る。しかも中国と大きく異なるのは、人口の92.5%が65歳以下という極めて「若い」国家であるということだ。そのインドと、核兵器でもって対立するパキスタンは、人口2億2700万人を超え、現在より20%以上増加する。
インドは、チベットなどについて、中国との領有権問題を直接に抱えている。また、南アジアの「火薬庫」であるインド=パキスタンのカシミール領有権問題に、両国だけでなく、パキスタンの支援国である中国が絡む。ここに、恐ろしいような対立が見える。インド、中国、パキスタンという3カ国がそれぞれに核兵器を保有して向き合う。しかも、3カ国の人口は30億人に達するのだ。
30億もの人々が、核兵器をもって対峙する…。我々は、わずか6年後に、そのような世界に直面しなければならないのである。
つづく
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あえば 直道
一般社団法人 JCU 議長。2012年より共和党全国委員会の顧問を務める。2015年に全米保守連合(ACU)のカウンター・パートとしてJCUを設立。2016年3月、トランプ候補公認前にもかかわらず、周囲の反対を押しきってトランプ大統領待望論「トランプ革命」を出版。2月発刊の「クリントン・キャッシュ」(監修)と併せて、Amazonでベストセラー1位を獲得。トランプ当選後、あえばの創った『トランプ「革命」』という標語が、保守派の間で一大ブームとなった。
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