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増税なき少子化対策の提言

 2023.07.21
増税なき少子化対策の提言

 

増税なき少子化対策の提言

 

①少子化全般に関すること

​​2022年日本の新規出生数は80万人を下回り、合計特殊出生率は1.27でした。総人口は総務省統計局の人口推計によれば、55万6千人の減少で、12年連続の減少となりました(1)。少子化対策、子育て支援に関する議論が多くの政治家、学者、評論家などから様々な主張がなされています。世界有数の富豪であり、テスラのCEOであるイーロン・マスクも自身のTwitterで「日本はいずれ消滅する」と警鐘を鳴らしています(2)。政府も異次元の少子化対策として諸々の政策について検討を加速させています。しかし、連日メディアからは、保守主義の立場からはとても受け入れられないようなことが平然と垂れ流されています。もちろん他の国々と同様に、現在日本が直面している少子化問題を軽視してはいけません。ですが、我々はどのような政策がソリューションになるのか、どのような政策が国民の自立心、自尊心、自由と繁栄を守るのかをより議論すべきです。

内閣府の令和4年版 少子化社会対策白書によれば、これまでもさまざまなパッケージが、1990年代のエンゼルプランから多く策定、実行されてきました(3)。今年4月からこども家庭庁がスタートしたのは記憶に新しいでしょう。ここ最近にいたっては、子育て世代に対する現金給付や教育支援、学校給食費の無償化、児童手当の所得制限の撤廃、教育国債、子供国債など大小様々な政策が提案されています。それらを正当化するために、こどもは将来の納税者でありいずれ税収として多くを回収できるため、より予算を割くべきだという意見も散見されます。慶應義塾大学大学院教授の小幡績氏は、政府の誰も、給付と出生率の上昇の検証などに関心がなく、とりあえずお金を配れば悪いことはないと、メディアも国民も無検討に受け入れ、大きな潮流をつくってしまっている(4)と指摘しています。毎回有耶無耶にされますが、本来どのような政策であろうと、政治家や行政は納税者からお金を徴収する前に費用便益(コスト/ベネフィット)を説明、分析する責任があります。例えば、毎月〇円を子育て支援で配る場合、予算と国民1人当たり換算を計算し、学術的な研究やデータに基づいて出生率への影響を計算し、国民に発表するといったようにです。しかし、子育て支援策の出生率に与える影響: 市区町村データの分析(阿部一知・原田泰)​​でも指摘されているように(5)、政策コストとその効果について明確に考慮しているものはとても少ないといえます。今回の議論に関しても、同様の指摘ができるでしょう。

 

②国家による非効率な補助金政策、経済要因、ライフスタイルの変化

例えば東京新聞の記事によれば、子ども関連支出の国内総生産(GDP)比は先進国平均を大きく下回っているとされています(6)。出典のデータが具体的に明示されていないため、どのデータのことを述べているのか不明ですが、参考までにOECDの家族手当の公的支出を確認すると、cash(現金給付), services(様々な支援), tax breaks(税額控除)の3つ要素にわけられており、確かに現金(cash)での支出は少ないものの、3つを合わせると、日本はカナダ、オランダ、イタリア、アイルランド、アメリカなどより多く支出していることがわかります(7)。それにも関わらず恩恵が少ないと感じるのならば、分配方法に問題があると考えざるをえません。少し昔のデータですが、平成21年の経済白書の「再分配効果の国際比較」によれば、日本の再分配効果は国際的にみて非常に低いことが明らかになっています(8)。政府や役人は、基本的にありがたみを感じさせるためにも、自身の権益を拡大させるためにも、自分たちのもとに集めてから分配することを好みます。しかし、ほとんどの国民にとって好ましいのは、そもそも最初からとる分(税金)を減らし、家庭が使えるお金を増やすことです。

別の主張として、お金が足りないから子供を持たないという意見があります。確かに国立社会保障人口問題研究所の調査などでは、理想の数の子を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を選ぶ夫婦の割合は52.6パーセントと最多の選択率です(9)。しかし、対象としているのは結婚している夫婦であり独身者は対象ではないという点と、お金をもらうから子供を産もうと考えるかどうかはまた別問題であるという点は指摘しておく必要があるでしょう。しばしば指摘されることですが、内閣府の都道府県別合計特殊出生率の動向によれば、全国平均1.36、東京都1.15(最低)なのに対し、県別の総生産が低い沖縄県1.82(最高)、島根(1.68)、鳥取(1.63)が高いことも反証になるでしょう(10)。子供の出生数と財政的な余裕は、単純な関係ではないといえます。

AEI(アメリカエンタープライズインスティテュート)の人口動態と経済の専門家 ニコラス・エバーシュタットは「税額控除やその他の政府給付を通じて、女性がより多くの子供を持つように直接インセンティブを与える政策は、それ自体で家族数の減少を逆転させることはまず不可能である(11)とした上で「楽観主義や価値観により出生率が高くなる傾向がある(12)と指摘しています。未来への不安はこどもを産むことを躊躇させることになると考えられます。

また、我々は財政的なものだけでなく、個人の価値観や暮らし方の多様化にも注目する必要があります。国立社会保障・人口問題研究所第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)によれば、「いずれ結婚するつもり」と考える18~34歳の未婚者は、男女、年齢、生活スタイルの違いを問わず減少(男性81.4%:前回85.7%、女性84.3%:前回89.3%)。平均希望子ども数は全年齢層で減少(男性1.82人:前回1.91人、 女性1.79人:前回2.02人)。「結婚したら子どもを持つべき」「女らしさや男らしさは必要」への支持が大幅に低下しているように、社会環境の変化により個々人の意識も変化していっていると考えられます(13)

厳然たる事実として、内閣府によれば、若年層や高齢者も含めた総人口1億1000万人に対して、未婚者は3279万人にのぼります。長期的にみても未婚率は上昇傾向が続いています。日本では、生涯未婚率が男性28.3%、女性17.8%です(14)。多くの日本人が、そもそも子供を持つ以前に、そもそも結婚に消極的であるという事実は、少子化問題に大きな負の影響を与えていると言えるでしょう。

東京大学大学院山口教授は「現金給付を増やせば経済的余裕は持てるが、必ずしも子どもを増やす方向ではなく、1人あたりの教育投資を重視する方向に向く傾向もある」と指摘しています(15)。では実際、子育て支援が出産率にどのくらいの影響を与えるのか?この質問に答える参考になる、興味深い研究結果が存在します。会計検査院によって2008年に公開された、『子育て支援策の出生率に与える影響: 市区町村データの分析』は、日本の合計特殊出生率の要因を、市区町村ベースのデータで政策変数と結合して分析しています。この論文において著者は、児童手当の別の目的を否定している訳ではないと前置きをしつつ、児童手当はこどもを増やすという目的で考えると効果が薄く、保育所の整備も子供1 人を増加させる財政コストは年2,780 万円でありそれでも、同じ財政支出に対して児童手当の4 倍弱の効果をもつとしています(16)。環境整備の方が好ましいが効果は限定的であり、給付はさらに効果が薄いことがわかります。

 

③ばらまきより減税が好ましい理由

このように、経済的なインセンティブは限定的な効果しかもたらさないと認識しつつ、冒頭に述べたように国家や我々のコミュニティを繁栄させるために、保守派として実際に政策としてうちだすとしたら、どのような方法、選択が好ましいでしょうか。

大前提として集めて配るのではなく、そもそもとる額を減らす目的で、税額を引き下げること、政府の恣意的な分配を防ぐことが重要です。ヘリテージ財団は、その利点について、限界税率を引き下げると、①資本コストが低下するため生産性が向上し、賃金が上昇すること。また税率が下がれば、②投資家や企業がリスクを取るインセンティブが高まり、新たな雇用が生まれ、中流家庭がより良い給与の職に就く機会も増えると指摘しています(17)

加えて、お金をばらまくのには、多くの管理費・人件費がかかりますが、一般的に政府が支援・補助金を支給することによりどれほどのコストがかかるのかには関心が払われにくく、日本政府もコストを公開しません。そのため、他国の維持管理のコストに基づいて説明します。

アメリカの食料費補助対策(food stamps)の一般管理費が10%、メディケイドの維持管理費は5%です。それに比べて、ヘリテージ財団の研究によると、アメリカで行われているACTC=こども税額控除の一般管理費はたった1%であり(18)、補助政策より効率がよいことがわかります。また減税・控除の利点として、ヘリテージ財団のカーティス・デュベー氏は、限界税率を引き下げると、手取りの金額が増えるだけではなくて、前述した通り、経済が繁栄し、国民はより良い給料をもらうことができることを指摘しています(19)

ばらまきは、次世代の子供の負担または現在の納税者の負担になり、さらなる貧困化を生みます。補助金、支援金は非効率かつ恣意的なものであり、仮に若者世代を対象にするというのなら、こども控除枠の拡充、NISA枠拡充、20代、30代の所得税の免税の方がよほど好ましいと考えます。

前項でも指摘したように、日本人の生涯未婚率は低下の一途を辿っています。結婚、子育てを促進するため政府の役割を挙げるとするならば、結婚するカップルに税制上のメリットを与えることです。例えば、45歳未満の夫婦が結婚した年から数年間、妻と夫に毎年さらに所得税控除を増やすか、所得税減税を行うことは、夫婦が結婚を選択する動機付けになるかもしれません。その結果、夫婦は他の場合よりも早く結婚することを選び、また現在の状況では結婚しなかったカップルが、結婚を選択することに繋がるかもしれません。

また子供が生まれてから3年間、両親の所得税を免除することも考慮されてよいでしょう。実際ハンガリーでは、こどもを4人産むと母親の所得税が一生免除されます。このような所得減税・免税政策は効率的に子育ての役に立つでしょう。財務省によると、令和5年の国民負担率は46.8%で、国民負担に財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は、53.9%になっています(20)。経済的な理由でこどもを持たないというのであれば、日本の過重な税負担を考慮する必要があります。

 

④結論

真に強い国とは、国民が自立し、繁栄することのできる国です。既に日本人は、高い税金と規制によって重い負担を強いられています。この状況下で、新たな政府プログラムや配布物(給付金)を追加することは、少子化だけでなく、他の問題もさらに悪化させるだけです。

非効率な国家運営は国力の低下をもたらし、中国、ロシアなどの権威主義国家の台頭に対して利することとなります。そのため、子供税額控除を増やすこと、親の所得減税、結婚を促進するための税制上の優遇は、親がより多くのお金を手にするための、はるかに効率的、効果的な方法というだけでなく、国民の負担、納税申告にかかる莫大なエネルギーをも減らします。また全体として大幅な減税を行えば、経済が活性化し、経済、財政的な持続可能性が増すことになります。

政府が個々の家庭から財産を奪うのではなく、減税、控除枠の増額で個人が自由に使えるお金を増やすことが肝要です。本来保守主義は制限された政府、自主独立、自己責任、自由を掲げてきました。現在の多くの政党が唱えている少子化対策は保守の理念に一致するとは決して言えません。

 


「参考文献、資料」

(1) 統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐ (stat.go.jp) / 2023年4月12日公表

(2) ブルームバーグ「日本はいずれ消滅する」とマスク氏警鐘-出生率低下でツイート / 大久保義人 2022年5月9日

(3) 令和4年版 少子化社会対策白書 第一部 少子化対策の現状 – 令和4年版 少子化社会対策白書(全体版): 子ども・子育て本部 – 内閣府 (cao.go.jp)

(4) 小幡 績「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている – 日本の「人口問題の本質」とは一体何なのか / 東洋経済オンライン

「少子化は最悪だ」という日本人は間違っている | 新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

(5) 阿部一知、原田泰「子育て支援策の出生率に与える影響:市区町村データの分析」(2008)/ 会計検査研究

(6) 子どものための支出「GDP比3%超は必要」- 現在はフランスの半分しかなく… 東大・山口教授に聞く:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) / 東京新聞 2022年

(7) OECD Family Database 抜粋 – PF1.1: Public spending on family benefits / OECD2017

(8)  平成21年度 経済白書 第3-2-13図 再分配効果の国際比較 – 内閣府 (cao.go.jp)

(9) 2022年5月9日 国立社会保障・人口問題研究所 – 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)|国立社会保障・人口問題研究所 (ipss.go.jp)

(10) 令和2年度 少子化社会対策白書 都道府県別合計特殊出生率の動向 – 令和2年版 少子化社会対策白書(全体版): 子ども・子育て本部 – 内閣府 (cao.go.jp)

(11) Implications of Japan’s Changing Demographics / October 10, 2012

(12) Can America Cope with Demographic Decline? By Nicholas Eberstadt National Review 2021 – Can America Cope with Demographic Decline? | American Enterprise Institute – AEI

(13) 2022年5月9日 国立社会保障・人口問題研究所 – 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)|国立社会保障・人口問題研究所 (ipss.go.jp)

(14) 令和4年版 少子化社会対策白書 – 第1章 少子化をめぐる現状 – 3 婚姻・出産の状況 / 内閣府 2022年

(15) 子どものための支出「GDP比3%超は必要」 現在はフランスの半分しかなく… 東大・山口教授に聞く:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) / 東京新聞 2022年

(16) 阿部一知、原田泰「子育て支援策の出生率に与える影響:市区町村データの分析」(2008)/ 会計検査研究

(17) Curtis Dubay – Congress Should Be Cautious About Expanding the Child Tax CreditJune 26, 2014

https://www.heritage.org/taxes/report/congress-should-be-cautious-about-expanding-the-child-tax-credit

(18) Robert Rector and Vijay Menon 2018 – Understanding the Hidden $1.1 Trillion Welfare System and How to Reform It

Understanding the Hidden $1.1 Trillion Welfare System and How to Reform It | The Heritage Foundation

(19) 17と同様

(20) 令和5年度の国民負担率を公表します / 財務省 令和5年2月21日