米中貿易戦争は終わるのか――J-CPAC2018 21世紀の貿易戦争 -米国、中国、そして日本
2018/11/27

米中貿易戦争は終わるのか――J-CPAC2018 21世紀の貿易戦争 -米国、中国、そして日本

2日目の午後に行われた経済セッション「21世紀の貿易戦争」は、2018年のJ-CPACの目玉行事のひとつである。トランプ政権の財政政策を支えるミック・マルバニー合衆国行政管理予算局長、安倍政権の支柱である甘利明自民党選挙対策委員長、そして杜進拓殖大学教授が登壇し、「米中貿易戦争」の行方を議論した。

 

(左から)熱い議論を交わした甘利明・元経産相、マルバニー・米予算局長、杜進・拓殖大教授

 

トップバッターで登壇した甘利氏は、通商政策を「ライフワーク」と位置付ける政策通であり、環太平洋経済連携協定(TTP)の交渉を主導した。その甘利氏が指摘したのは、貿易不均衡は米中間の経済問題の「入り口に過ぎない」ということだ。貿易収支の不均衡そのものが問題ではなく、(1)技術の強制移転、(2)知的財産の不正使用、といったアンフェアなルールこそ、問題の焦点なのである。

 

確固たる持論を展開した甘利明・元経産相

 

これについては説明が必要だろう。中国政府は、自国の技術高度化を目指す分野について投資制限を設けている。自動車、航空機製造などの分野について中国市場で事業を行うためには、外国企業は中国企業と合弁を組む必要がある。その提携相手の中国企業や時には政府そのものから、重要技術を移転するよう「強要」される事態が起きている。知的財産権については、いわゆる「パクリ」問題が面白おかしく報じられることもあるが、そのようなレベルではない。人民解放軍の諜報部門(中国軍のスパイ部門)が、ソーラーワールド、USスティールなどの企業にサイバー攻撃を加え、それにより得た技術情報を国有企業に提供している。

 

こうしたアンフェアな行為こそ、貿易戦争によって解決されるべき「本丸」なのだ。トランプ大統領が中国の不当行為に敏感に反応するのは、製造業、すなわち「ものづくり」が経済の基幹であると認識しているからだ、と甘利氏は述べる。

 

問題の解決は日本経済にとっても重要だ。「ビッグデータ革命」によるデータ・エコノミーは、情報の「安全かつ自由な流通」を要求する。「しっかりと情報の安全を確保する」ことと「自由に情報を流通させる」という相反する要求が満たされなければならないのが、現代経済の特徴である。これに対し、中国は情報が「安全ではないが自由に流通する」状況になっている、と甘利氏。こうした不公正を是正し、公正な経済活動を可能にするのが、日米中で取り組むべき「課題」なのだ。

 

次に登壇した杜氏は、「世界第1位と第2位の経済大国が関税戦争をするのは、世界恐慌以来」と指摘する。そのうえで、この経済戦争がいつ、どのような形で終わるかが問題だ、と課題設定した。杜氏の言葉を借りると、「後世の歴史家がこの経済戦争を、『2018年にあった』と記述するのか、それとも『2018年から始まった』とするのか」。

 

歴史的視点に基づいて貿易戦争を解析した杜進・拓殖大教授

 

歴史家の目線を持つ杜氏にとって、いまの米中経済戦争は、20世紀後半に起きた日米経済摩擦と本質的にはさほど変わらない。巨額の貿易不均衡、市場を開放しているといいつつ続く高関税、出資制限、知財保護問題。だが、それはコメや繊維産品、自動車などについてかつて日米が抱えた問題とそれほど変わらないのではないか、という。

 

問題をわかりにくくしているポイントのひとつは、トランプ大統領が対中政策についてどのような目的を持っているのか、である。中国の譲歩をとりつけて「駆け引き」(deal)したいのか、あるいは経済的相互依存関係を断ち切るところまで視野に入れた「戦い」(fight)をしたいのか。「戦う」つもりなら中国は譲歩しづらいが、いまの中国指導部は譲歩できるところはしたいはずだ、と杜氏は推測する。11月30日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開幕するG20において、「終結宣言」が出るかもしれない、というのが杜氏の期待である。

 

3人目の登壇者はマルバニー氏。彼はまずトランプ大統領の通商政策に関する「誤解」を指摘した。すなわち、大統領は貿易そのものに拒否感があると言われるがこれは誤りだ。「アメリカ・ファースト」は「アメリカ・アローン」ではない。貿易が利益をもたらすことは理解できているし、アメリカはこれからも貿易国家であり続ける。

 

熱弁を振るうマルバニー米予算局長

ではなぜ、トランプ政権は貿易に敵対的であると見られているのか。おそらく北米自由貿易協定(NAFTA)などに対する態度から邪推されたのだろう、としつつ、大統領は是正を指示しているだけだとマルバニー氏は指摘する。たとえば、NAFTAにはインターネット取引に関する規定がない。時代の変化に対応できていないものを修正するのは、むしろ必要なことだ。

 

中国についても同様だ。中国は世界貿易機関(WTO)に参加したが、ルールを恣意的に運用している。公平なルールのもとで自由貿易を行う制度のもとにいながら、同じ規制を等しく受け入れていない。すでに指摘した知財や技術移転の問題がその端的な例だ。

 

貿易は、国内の規制や税制を変えるよりはるかに難しい、とマルバニー氏は指摘する。相手の政治体制を変えることはできないし、何らかの権限があるわけでもない。だからこそ、強い牽制が時として必要とされる。「『戦い』か『駆け引き』かという話があったが、我々はより良いディールのために戦っている」。

 

すべての論者に共通しているのは、中国が経済面で「まともな国」になる必要がある、ということだ。杜氏はG20における「休戦」に言及したが、米中は世界経済の大国として、より公正で自由な通商ルールを建設していかなければならない。「貿易戦争」の落としどころはいまだ不透明だが、妥協を望んでいる中国が必要な譲歩をできるよう、国際環境の整備を日米は進めていかなければならない。